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化物

  • 執筆者の写真: 29Gulls
    29Gulls
  • 2017年10月17日
  • 読了時間: 4分

「安全運転で行かさせていただきます。よだれダコです」

男の3つ年上の先輩はそう言い放つと、車はゆっくりと動き出した。

2017年9月11日 @瀬戸田サンセットビーチ

I love you 連発する渚のオオカミboyもまだ“あー夏休み”ということで、男の4つ年上の先輩の車に乗せていただき、しまなみ海道トライアスロンの応援に行った。

夏のビーチはTUBEとサザンがよく似合う。男は平成生まれだが、曲の好みはどちらかというと昭和寄りである。

2014年9月4日 @千葉・よしもと幕張イオンモール劇場

千鳥ノブ「今日、県外から来られた方いますか〜?」

(男、手を挙げる)

千鳥ノブ「じゃあ、そこの白いTシャツ着たお兄さん。今日はどちらから?」

男「広島です」

千鳥ノブ「広島!?へぇ〜わざわざ遠いところから来られて。今日はどういう感じで来られたんですか?」

男「今日の夜にロッテの試合があるんで、そのついでに来ました」

千鳥ノブ「いや、“ついで”って!笑

まぁまぁ来てくださっただけでもありがたいことですよ。今日は誰を目当てに来られたんですか?」

男「ロッテの選手のことですか?」

千鳥ノブ「いやロッテの選手じゃなくて!笑

じゃあロッテの選手の方も聞いてみましょうか?選手は誰が目当てなんですか?」

男「えーと、サブロー選手(2016年引退)です」

観客「おぉ〜」

千鳥ノブ「なるほど、サブロー選手ですね〜」

千鳥大悟「大平サブローかの?」

千鳥ノブ「違う〜、それはワシらの師匠じゃ〜。1年中マラソンばっかりして肌が真っ黒の師匠じゃ〜。 のぉ〜大悟〜」

(大悟、ツボに入る)

(男を含め観客全員が笑う)

千鳥ノブ「じゃあ最後に、この劇場には誰を目当てに来られたんですか?」

男「もちろん千鳥さんです!」

千鳥「ありがとうございます〜」

好きな芸人の中の1組である千鳥と会話できた男はしばらく興奮状態が収まらなかった。

今やテレビで見ない日はないと言っても過言ではない千鳥は当時、東京に進出して2年ほど経っていたが、東京ではまだそこまで売れておらず、周囲からは大阪に帰った方が良いんじゃないかと言われていた。

男は千鳥と会話した余韻に浸りながら、イオンモール幕張新都心からQVCマリンフィールド(現ZOZOマリンスタジアム)へと歩いた。

男は歩きながらふと、このまま何の部活にもサークルにも所属せずに、こんな感じで呑気に遊んでバイトして大学生活終えて良いのか、と思った。

それは男がトライアスロン部に入る1ヶ月前のことだった。

しまなみトライアスロンの帰りは男の3つ年上の先輩の車に乗せていただくことになった。

「しかし、千鳥はホンマ面白いよな〜」

「僕も千鳥が1番好きです。僕、3年前に千鳥と会話したことあるんですよ」

「へぇ」

生口島から西条へ向かう車内は、ぎこちなくも、どこか安心感のある雰囲気に包まれていた。

誰かこの声を聞いてよ

今も高鳴る身体中で響く

思い描くものが明日を連れてきて

奈落の底から

化けた僕をせり上げてく

知らぬ僕をせり上げてく

©︎星野源「化物」 -3rdアルバム「Stranger」より-

星野源はこの曲を書き下ろした直後にくも膜下出血で倒れるも約2ヶ月で復帰し、今もなお音楽界の第一線で活躍し続けている。そんな彼は復帰後のインタビューでこう語っている。

「倒れて良かったと思うことがいっぱいあって、何より音楽が新鮮に聴こえるようになりました。スポンジのようにいろんな音楽を吸収していた20歳の頃のピュアな気持ちに戻った感じで、何を聴いていても楽しい。何を見ても楽しいんです」

2017年10月14日 @黒瀬屋内プール

例の足首の捻挫がほとんど治り、キックも以前ほどではないが、普通に打てるようになったので、男は全体練に参加した。

院試勉強に専念してた時期+怪我でまともに運動できなかった時期が約3ヶ月ほどあったため、筋肉や心肺機能がかなり衰えていたが、それでも久しぶりに体を思いっきり動かすのは楽しかった。これから練習するに連れて速くなっていく自分を想像するとまた楽しくなる。

足首を怪我した直後は情けなさと無力感に苛まれていたが、今思えば、怪我で得たものやこれから得ようとするものも大きい気がする。長いブランクにより泳ぎのフォームを体が忘れていたが、良い言い方をすればこれで“リセット”されたため、前まで自分の課題だったことに注目してフォームを作り上げたら、上手くいけば以前よりも速くなる可能性もある。それはバイクやランでも同じである。

今後は以前のようにまた定期的に練習しつつも、怪我には気をつけて、何よりも“安全”に競技を続けていきたい。

練習後、メンバーが全員車に乗ったことを確認すると男はこう言い放った。

「安全運転で行かさせていただきます。よだれダコです」

助手席に座っていた男の2つ年下の後輩は反応に困っていた。

そして、メンバーを乗せたスズキの黒のLANDYはゆっくりと動き出した。

 
 
 

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