SKY WALK 〜裏切りのブラチスラバ〜
エピソード2
裏切りのブラチスラバ
テッペルの頭の中は混乱が渦巻いていた.辺境の地,スロバキアでの生活が想像を超えたのだ.
温厚なブラチスラバの民は慕うべき思いやりの心で日本選手団を迎え,我々の心を掴んでしまった.この想定外の事態に日本選手団は果てしない驚嘆をただ繰り返すばかり.
テッペルは両国の友好のために「ありがとう」と「Thank you」の言葉2つを合言葉として民に感謝し続けたのだった….
朝6:30.
豪華なホテルの朝食を終え,日本選手団5人でミーティング.
今日は会場でオープニングセレモニーが行われる.
各自バイクを組み立てた後,9:30頃から会場へ向けてバイク試走をすることに.
バイクの調子確認を兼ねた往復50kmほどのライド.
部屋と同じ階のエレベーター前の広いスペースでバイク組立.
Di2のバッテリーを戻し,ディレーラーも取り付け,ハンドルも元通りに.
バイクは問題なさそう.
宿泊客が珍しそうにチラチラ見てくる.
目が合えば口角を上げてコミュニケーション.
そういえば,空港を出てからは99.9%の人がノーマスク.
するとランニングウェアを着たアジア系の若い女の人が近づいてきた.
「何カアルンデスカ?」
カタコトだけど上手な日本語.
トライアスロンの大会が開催されてそれに出ることを伝えると
「ガンバッテネ!」
と元気づけてくれた.
一緒にバイクの組立をしていた村上教授によると,外国人は日本人が「気になる」そう.
文化や価値観,日本語は日本固有のもので日本人が話す言葉を聞きたいらしい.
英語で返事してしまった….ごめんね.
さあ,試走だ.
少人数でも日本選手団での試走にワクワク.
テッペル以外は全員TTバイク.
CerveloにSpecialized,Ceepo.ロングが主戦場の方々だから,そりゃそうだよね….
目指すはレース会場の町「サモリン」.
ドナウ川や高速に沿って,山内さんの指示で進む.
マメな山内さん,ルートを完璧に把握.
コースはどフラットな平坦道.
日本選手団のTTバイクが「コォ~…」唸りを上げる.
青野社長はディスクホイールも着用.後ろに付くだけでやっと.
日差しが強く気温は35℃予想.それでも湿気が無いから最高のバイク日和.
会話と景観(ドナウ川や山が無い田畑の景色は圧巻!)を楽しみながら会場に到着.
どうやらランの折り返し地点で,共催のアクアスロン選手権の選手が今から来るらしい.
30分弱するとJAPANのトライスーツを着た選手が走ってきた.
三品さん.横浜在住.
先週は世界エイジスプリント選手権,そしてエイジロング選手権にも出場する超人.
後から聞いた話,ツアーには参加せず自身で全て手配して参加しているらしい.
世界選手権のことなら何でも知ってるスペシャリスト.
三品さんを見届け,ホテルへとんぼ返り.
ホテル併設のプライベートプールで1時間弱,身体ほぐし程度のスイム練.
12.5mぐらいだから絶対にスイム練なんかするようなところじゃないけど….
部屋に戻った後,村上教授とホテル前のピザ屋で昼食.
マルゲリータピザ(直径30cm強)は日本円で\1,000ぐらい.
スロバキアは物価が安いのか,円安の時期にお財布に優しい.
14:00.
5人で会場にレンタカーで向かう.
運転手は青野社長.この日の為に国際免許を取ったらしい.
運転免許を持っていて書類さえ提出すれば,有効期限内に対象国が運転可能らしい.
車で20分ほど.青野社長,慣れない道もお手の物.
会場中心部到着.
会場はオリンピックセンターになっていて,国技(?)の乗馬の施設が主なエリアに.
晴天で青空が広がる.
会場は土曜日に行われるCollins Cup色に染まっていて最高!
たなびく各国国旗,大音量のBGM,鍛え上げた選手の集団….
テンションが上がらないわけがない!
会場に着いて早々,選手登録(レジストレーション)へ.
やっぱり登録名は”Teppel Takemura”.
誰だ,どの時点で間違えられたんだ?(笑)
参加賞はCollins CupのTシャツ,ボトル,リュック,トランジベルトなどなど.
そりゃこんだけもらわなきゃ.
大金払ってるんだから….
オープニングセレモニーは15:30から.
ここでアクアスロンに出ていた三品さんも合流.
各国選手団が待機室のガレージに集まる.
UK,イタリア,フランス,ドイツ,オーストラリア,ブラジル,シンガポール….
ざっと30か国ぐらいが集結.まるでミニオリンピック.
アメリカは早くも「USA!USA!」コール.
アルファベット順で直前のジャマイカの女性は民族衣装で踊ってる.
打楽器演奏の音量が一段と強くなる.村上教授が日の丸を掲げ,行進が進む!
World Triathlonのカメラや観客のカメラが向けられ,手を振りながらゆっくり前へ.
まさか一生のうちにこんな経験ができるなんて!
途中,テッペルも日の丸を掲げさせてもらった.
「コンニチハ!」
「アリガトウ!」
大人から子供まで日本語で声をかけてくれた.
嬉しい,嬉しすぎる!
隊列は広場へ.
オープニングセレモニーが正式に始まった.
Collins Cup実行委員やWorld Triathlon実行委員の話が終わり,スロバキア国歌独唱に.
中高生ぐらいの女の子の独唱.
他国国家なのに,鳥肌が立つ.
めちゃくちゃに気合が入る.
オープニングセレモニー後はパスタパーティー.
各国エリート選手も含む世界中の人が,同じ場所で同じ食べ物を食べる.
ブレッドを素手で取っていると
「おいお前,大胆やなぁ(笑)」
みたいなことをスペインの選手が英語で話しかけてきた.
聞くと,その人はエリートの選手だった.
料理はどれも美味しく,特にマッシュルーム入りのカルボナーラが絶品.
パスタパーティーでここまでの料理は初めてだ,と村上教授.
Collins Cupと併催しているおかげだろう.
Collins CupはOD(オリンピックディスタンス)やアイアンマンで活躍する各選手を集めて,それぞれが主戦場の距離の丁度間(Swim 2km Bike 80km Run 18km)でシリーズ戦を行う大会だ,と山内さん.
今年で開催して2年目と比較的新しい.
「年代別,表彰台いけんじゃん!」
三品さんがスタートリストを見て言う.
確かにエイジ男子20-24歳はテッペルを含め4人.
ニュージーランド人2人にハンガリー人1人.
「頼むよ~,竹ちゃん.」
山内さんに肩を揉まれる.
「表彰台登ったら祝勝会やな!」
青野社長にも激励される.
成績を意識すると結果が悪くなりがちなテッペル.
それでも,今回ばかりはこの人たちのためにも表彰台に上がりたい.
しかもテッペンに.
レース会場隣接ホテル宿泊の選手はアフターパーティーで朝までどんちゃん騒ぎだそう.
日本選手団は早々に引き上げ,ブラチスラバのホテルへ.
車の中ではオープニングセレモニーのレビュー.
日本選手団の興奮は未だ収まらず….
大会まで2日.
頑張れテッペル.負けるなテッペル.
ニュージーランドもハンガリーも怖くないぞ!
Continue…
Comments