SKY WALK 〜クリスチャンの進撃〜
エピソード4
クリスチャンの進撃
テッペルは過酷な競技トライアスロンにその身を捧げている鉄人クリスチャン・ブルメンフェルトの登場を撮影するべく彼の更衣場トランジッッションエリアへと向かった.
だがテッペルの知らぬ間にクリスチャンは秘密裏に特別な漆黒のトランジッションエリアに現れていた.それはあの恐るべき超人David perez barbosaをはるかに上回る強靭な肉体を持っていた.
この究極兵器とOWSしてしまったら日の丸に誇りを持って戦う少数の日本選手団はひとたまりもなく溺死してしまうだろう.
「次の信号を左折し,3番目の出口を出ます.」
車内のオーディオに繋げたGoogle先生の道案内が続く.
海外によくあるロータリー型の道路は出口を「〇番目」と表現する.
備え付けの英語版ナビは,道を間違えると「Uターンしろ」の一点張りだった.
代替ルートを検索することもなく,一方通行でも「引き返せ」.
残念ながら英語版ナビは初日で降板し,安心安全のGoogle Mapの経路案内を活用.
レース前日.
今日は午前中にバイク搬入を済ませ,午後からお待ちかねのCollins Cupの観戦.
積載量の都合で,会場とホテルを2往復.
山内さん,村上教授が1便,青野社長とテッペル,青野夫人が2便で会場へ向かう.
持ち物は以下の通り.バイク本体はもちろん,
「スイム→バイク」バッグには,ヘルメット・サングラス
「バイク→ラン」バッグには,ランシューズ・ゼッケンベルト・ソックス・ヘッドバンド
を投入.
バイク上でも問題ないが三品さんのアドバイス通り,念のためヘルメットはバッグ内に.
バイクシューズはバイク本体に取り付け,飛び乗りできるようにセッティング.
2つのトランジッションバッグはトランジッションエリア端のラックにかけておく.
トランジッションの際には,そのバックをピックアップし更衣テントで着替える.
着替え終えた後,バッグは待機オフィシャルに預けておくらしい.
その後,バイクをピックアップしバイクコース,もしくはそのままランコースへ向かう.
出場経験はないが,国内だとバラモンキング(五島)もこの形式らしい.
慣れないトランジッション.上手くできるか,間違えないか不安が募る.
会場到着後,各選手トランジッションの準備へ.
経口補水液+アミノバイタル(粉末)+ポカリスエットのボトル2本.
トップチューブにアミノバイタル×4,カロリーメイト1箱分を張り付ける.
明日,レース当日は雨予報.
雨ざらしはまずいので,ハンドル,ディレーラー,シューズにはビニール袋を被せる.
バイクラックの左右を見渡す.
同じ年代別の選手は,まだだれ一人搬入していない.
バイクがどんなものか見たかったけど,そんなみみっちいことは気にしないことにした.
日本選手団全員バイク搬入を済ませ,会場の屋外レストランへ.
レストラン敷地内は観客でほぼ満員.
何とか座れたけど,注文を通せる隙がなく,ウェイターが縦横無尽に働いている.
20分ほど待って,何とか注文が通る.
頼んだ料理は「ニョッキのナッツ和え」.
形はじゃがりこ,触感は固めのおもち.
ナッツと蜂蜜のようなものがかかっていて美味しいが,甘すぎて終盤は失速….
食べ終わって会計を済ませるためにレジへ行くと,
「だいぶ待たせちゃったから,全員にコーラ一杯あげるよ.」
と男性ウェイターさん.
何という神対応.
思いやり,心の広さ,機転すべての項目でK点越え.
コーラはシナモンの風味がしてクセがあったが,それがまた良かった.
さて,コーラを片手にCollins Cup観戦だ!
最初はトランジエリア近接のグランドスタンドで見ることにした.
大型モニターもあったため,レース全体の様子が良くわかる.
レースは13:00スタート.
会場内に大音量のBGMとレースMCの声が鳴り響いている.
Collins Cupはチーム戦.
ヨーロッパ連合,USA,大陸連合チーム(カナダや豪など)の3チームで争う.
各チームが1大会に女子6名,男子6名,合計12名送り込む.
レースは各チーム1人ずつの3人が同時スタート.
各組(全12組)の間は10分間隔.
3人の内での順位で獲得ポイント数が決まり,12名の合計ポイントで各国の成績が決まる.
女子1組目 ヨーロッパ連合 ダニエル・リフ,大陸連合チーム フローラ・ダフィ
男子1組目 ヨーロッパ連合 クリスチャン・ブルメンフェルト
が注目だ…,と山内さん.
有名選手をあまりよく知らないテッペル.教えてもらいながら観戦する.
トランジッションエリアに次々と各国選手が準備に入ってくる.
コーチ,メディア,観客の人だかりが溢れかえり,中には写真やサインをもらう人もいる.
リフやダフィー,ブルメンフェルトも登場した.
特に,ブルメンフェルトを近くで一目見ようとする人だかりがまとまって動いている.
Collins Cupのコースはスイムコースを除き明日の世界選手権と同じコースを利用する.
明日,この人たちが走ったコースと同じ場所を走るのか….
\\Athletes, your own hands on the starter, … takeyour marks …//
パァーン!!
時刻は13:00.
第1組がスタート.
大型モニターには3人が連なって泳ぐ様子が映し出される.
泳ぎだしの腕のピッチが速く,まるで100m自由形.
10分ごとに各代表3人ずつがスタート.
なるほど,これだと誰が競っているのか分かりやすく,お気に入り選手を追うこともできる
「藍ちゃんが出てくれたりしたら,もっとおもろいやろなぁ!」
青野社長が言う.
「まあいずれ竹村君が出てくれますよ.」
村上教授,無理があります.
それにしても,この大観客,変わったレース規則,代表として各国選手とバチバチに戦う.
肩を並べて立てるものなら立ってみたい.
\\Come on everybody!! Make some “NOIZE” !!//
20分ちょっと経つと,MCが叫んだ!!
選手が帰ってくる!!
グランドスタンド下を潜り抜けて3選手がトランジッションエリアになだれ込む.
デッドヒートだ!
すぐにウェットを脱ぎ,苦しい表情ながらも大歓声に包まれてバイクコースへ消えていく.
ちなみにこの距離を競う選手は,基本飛び乗りはしていなかった.
トランジッションの速さはレース結果に大きく左右されないからだろう.
全員,雅人式飛び乗り.
ブルメンフェルトも少しスイムで出遅れながらバイクコースへ.
スマホのアプリでレース展開を追う青野社長.
「ブルちゃん,なんで復路の方が速いねん!」
確かに青野社長の言う通り.復路は向かい風4-5m/sの予報.
バイクの様子は大型モニターに頼るしかない.
全員完璧なTTポジションで漕ぎ続けている.
腹圧がかかって,おなか回りもパンパンに膨らんでいる.
2時間ほど経つと各選手が帰ってくた.
ランコースに入る直前,選手はグランドスタンド横をすり抜ける.
USAのある女性選手が観客を煽る.
\\Go!!!!!!!! U・S・A!!!!!!//
\\Hoooooo!!!!!!!//
観客もそれに応える.割れんばかりの大歓声.
心揺さぶられるような場面にテッペルの胸も熱くなる.
居ても立っても居られなくなってきた.
前日の刺激入れも含め,会場の外れでジョグ+スプリントをすることに.
影響を受けやすいテッペル.まだレースでもないのにアドレナリン出まくり.
先頭選手がラスト1周に入ってからはゴール付近で選手を待つ.
各選手が苦しい表情で帰ってくる.
Collins Cupに出る選手はテッペルと次元の違う選手.
だけど,この表情を見ると同じ人間なんだなと思う.
戦うカテゴリーが違うけど,結局彼ら彼女たちもしんどいものはしんどいんだ.
次々と選手がフィニッシュする.
4時間かかっている人なんていない.
全員3時間前半台.
そして奴も帰ってきた!!
とんでもないストライドのデカさで.
大型モニターに映る速報ペースは3’30/km.
本当に80km漕いできたのか!?
18kmちゃんと走ったのか!?
ハイタッチをせがんでみる.
右手薬指にかすかに触れた.
そのままゴールテープを右手で振り上げるようにしてフィニッシュ!!
すごい,すごすぎる.
ここまでの選手と渡り合うのは到底できないけど,テッペルも早くレースがしたくなった.
ホテルに戻り,夕方18時すぎ.
晩飯は日本選手団5人全員でホテル近くの日本料理屋「和(Kazu)」へ.
これも山内さんの事前下調べのおかげ.
レース前は食べなれたものを食べたかったので,すごくありがたい.
おにぎり4つと唐揚げ丼を平らげた.
夕飯からホテルに戻ると20時.
翌日のレース準備をある程度済ませ,湯船につかり入浴.
入浴を終え,軽くストレッチを済ませると,日中の観戦疲れもあったからすぐに眠れた.
いよいよ大会だ.
遂にたどり着いた.
できることは全てやった.
テッペルよ,あとはスタートラインに立つだけだ!!
Continue…
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